鯨統一郎 なみだ学習塾をよろしく!

めっきり寒くなりましたが,布団にもぐって読書三昧といきたいところです。

なみだ学習塾をよろしく!―サイコセラピスト探偵波田煌子 (ノン・ノベル 836)なみだ学習塾をよろしく!―サイコセラピスト探偵波田煌子 (ノン・ノベル 836)
鯨 統一郎

祥伝社 2007-09
売り上げランキング : 44370
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あらすじ

教育こそが日本を変える。希望に燃え学習塾を開いた波田信人には戸惑うことばかり。受験を控えた中学生の間で,厄介な事件が続発するのだ。そして最大の悩みが新米事務員・波田煌子。元警視庁のプロファイラーだというが,言動はお惚け。しかし事件の真意はどうやら掴んでいるようで・・・

感想

波田煌子さんの本も3冊目となりました。「サイコセラピスト探偵・波田煌子」ってシリーズタイトルまでついてます。(今確認したら,2巻目にもついてました(^^ゞ)
というわけで今回もおいしいお茶とお茶請け満載で,謎を解きまくります。本屋で見た第1印象は「学習塾??」。しかし,案ずることはありませんでした。やはり波田さんは変わりません。熱血塾長を巻き込んで塾の生徒たちの悩みをいつの間にやら解決していきます。
しかしこの作者は奇才というかなんと言うか,各話の最初に出てくる薀蓄が半端じゃないです。今回は学習塾ということで,受験やその他授業のつかみみたいなものが面白い。思わず今度使おう! って思うものもあったりします。
完全にシリーズとなり,波田さんはちょっと控えめな感じですが,塾長の波田さん(こちらははたさん,ちなみに塾の名前ははた学習塾をうやむやのうちになみだ学習塾に変えられてしまいました)のとぼけた熱血さが素敵だったりもします。

谷甲州 空中雷撃−覇者の戦塵1943

長らく開店休業状態が続いておりました(私の夏ばてが原因です)が,なんとか読書量も徐々に回復し,再開のめどが立ってまいりました。この間ほとんど読めてはいないのですが,本屋には少しずつ通い,またもや未読の書籍が着実に私の領域を圧迫してきています。 

空中雷撃―覇者の戦塵1943 (C・Novels 41-36)
空中雷撃―覇者の戦塵1943 (C・Novels 41-36)甲州

おすすめ平均
stars著者の本領を発揮した後方の戦い

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あらすじ

海軍技術研究所の深町中佐は,電子信管を内蔵する敵の高角砲弾を鹵獲した。その対策に奔走するうち,長射程噴進爆弾<丸大兵器>の開発現場に行きつく。一方,敵信の傍受を行う大和田通信隊では,ハワイ諸島の敵海軍に不審な動きを探知していた。

感想

久しぶりの覇者の戦塵です。作者がもう忘れてしまっているのかと思いました。あとがきによると二年五ヶ月ぶりの新刊です。今回のメインはシリーズを通して重要な役割を果たしている深町中佐と,通信隊の予備中尉です。物語的には前作の「電子兵器奪取」の続きという形で始まっているので,最初は前作を思い出しながらということになります(まあ,忘れ去っていても何とかなりますけど)。
そしてなんといってもこのシリーズの真骨頂,”技術者から見た戦史”がこれでもかと畳み掛けます。今作では戦闘場面はまったくありません。深町中佐編では,技術論や上司,他部署との腹の探りあい。大和田通信隊編では,暗号解読論や通信傍受の解析。一応このシリーズも架空戦記ものになるのでしょうが,こうして改めてみるととことん地味!
それでもやっぱり面白いです。技術者や情報士官たちの後方での熾烈なる戦い。戦闘場面など登場しなくても,しっかりと手に汗を握らせていただきました。特に通信傍受の時間とも戦いながら,解析を進めていく場面など最高です。
一応作者の希望としては,次作は年内に出したいということなんで,ぜひがんばってもらって続きを早く読ませていただきたいものです。

赤城毅 書物狩人

書物狩人書物狩人
赤城 毅

講談社 2007-04-06
売り上げランキング : 201209
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あらすじ

世に出れば,国を,政治を,歴史を揺るがしかねない秘密をはらんだ本を。合法非合法を問わず,あらゆる手段を用いて入手する,その存在は謎に包まれ,彼らの活動が表に出たことは一度もない − 書物狩人。
バチカンから獲得を依頼されたギリシア語写本やナポレオンの旧蔵書・・・書物狩人が鮮やかに稀覯本に隠された物語を紐解く。

感想

こいつは驚きました。赤城氏の本にしては渋い装丁だなとは思いましたが内容もこれほどとは。ともかく今までの路線とはまったく違います。失礼な言い方をすればこの人はこんな本もかけるんだ! という驚きを感じました。前編を抑えた筆致で描き,シリアスなストーリィが進んでいきます。派手なアクションも強力なボスキャラも出てはきませんが,綿密な設定と大きな謎でぐいぐいと読まされていきます。
この作者の痛快活劇もよいですが,このような内容のものが書けるのであればもっともっと発表してもらいものです。

山本弘 闇が落ちる前に、もう一度

お盆休み明けからまた本読みペースが落ちてましたが,時間つぶしに入った本屋で偶然見つけた短編集をリハビリ替りに読んでみました。

闇が落ちる前に、もう一度 (角川文庫 や 40-3)闇が落ちる前に、もう一度 (角川文庫 や 40-3)
山本 弘

角川書店 2007-08
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あらすじ

この世界はどうして生まれたのか? 宇宙の果てはどうなっているのか? ”本当の宇宙の姿”を追い求め,在る独創的な理論に到達した宇宙物理学者。彼はこの理論の誤りを証明するためにある実験を始めたのだが・・・

感想

最近はSF系の出版社より角川や新潮など一般文学的な出版社からが増えている「と学会」会長の新刊です。前回の「まだ見ぬ冬の悲しみも」とはうって変わってシリアスな短編をそろえています。解説にも書かれていますが,ホラーとSFの境界っぽい作品がメインです。
宇宙や世界の成り立ちという壮大なテーマとラブストーリィを両立させた「闇が落ちる前に、もう一度」や「審判の日」。日常の中に不条理なものを忍び込ませた「屋上にいるもの」「夜の顔」。そして1作だけ雰囲気の違う人工知能の心を描いた「時分割の地獄」。どれもどこにでもある日常から入り,いつの間にか非日常の世界に迷い込んでいく秀作です。これを読んでいて子どものころに読んだ,福島正実氏などの日本SFの初期のジュブナイルSFをなんとなく思い出しました。

夢枕獏 陰陽師 夜光杯の巻

暑い日々が続きますが気分転換にゆったりとこんなお話を

陰陽師 夜光杯ノ巻陰陽師 夜光杯ノ巻
夢枕 獏

文藝春秋 2007-06
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あらすじ

若き陰陽師・安部清明雅楽の名手・源博雅龍神,幽鬼,獄卒,怨霊たちが引き起こす怪事件を鮮やかに解決する。「月琴姫(げっきんひめ)」「花占の女(はなうらのひと)」「龍神祭」「月突(つくづく)法師」「無呪(むしゅ)」「蚓喰(みみずく)法師」「食客下郎(しょっかくげろう)」「魔鬼物小僧(まきものこぞう)」「浄蔵恋始末(じょうぞうこいのあれこれ)」の9篇。

感想

このシリーズも9作目となりました(絵物語は除いて)。はじめて手にしたのは学生のころ,うん十年も前のことがうそのようです(^.^) 酒の味を覚え始めたころで,清明と博雅のまことに楽しげな宴の様子に憧れたものです。
今回も期待を裏切らず,どの話も2人の酒のシーンから始まります。そしてどちらかが怪異を語り,清明が解決に乗り出すことになります。「ゆこう」「ゆこう」そういうことになった。いつもの展開となります。
この巻はこれまでより,より静かに話が進んでいくような気がします。そして,悲しい話がいつも以上に淡々と語られて行くようにも思えます。事件が解決した後に,また2人で酌み交わす席での遠い会話がより風情を感じさせます。
秋の夜長にじっくりと読み込みたい話ばかりですが,寝苦しい熱帯夜にもお勧めです。

千葉暁 聖刻群龍伝−龍攘の刻4

暑くて本が読めん。などいいながらついつい手にとってしまった。この1冊。おかげで睡眠時間4時間で海水浴に行く羽目になってしまいました。ビーチでよく眠れましたです。

聖刻群龍伝龍攘の刻 4聖刻群龍伝龍攘の刻 4
千葉 暁

中央公論新社 2007-05
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あらすじ

歴史はついに2人の龍に審判を下す。覇道を歩み行くは常に一人。友誼で始まり,同志として手を携え,義を選び,運命が分かたれた。。帝国と連合との衝突−サイオンとデュマシオンの対決がここに終結する・・・

感想

1年ぶりの群龍伝です。龍攘の刻も最終巻。全体としてもクライマックスへと近づいているようです。そして最終巻にふさわしく,すばらしい操兵戦の描写がこれでもかってほどに描かれています。龍攘の刻はなんとなく陰謀や優柔不断なデュマ様が多く,暗〜くなる場面も多かったのですがそれらを一掃するような力の入った1冊でした。それでも主要登場人物の2名がこの巻をもって退場してしまいました。それも,思いもかけないようなところで。1名は嫌な予感はしていたのですが,戦闘も勝利に終わり考えすぎかと安心した矢先,ほんと思いもかけない形でなんともあっさりと。どうしても作者は主人公には不幸を与えたがるものなのか・・・ それでも,それぞれの登場人物がだんだんとあるべきところに収まりつつあるように見えてきた今,最終章がどのような展開となるのか最後までしっかりと見届けたいと思います。
ところで,この巻からイラストレーターが変わったみたいです。別にそうは気にはなりませんが何でこんなタイミングなのでしょうかね。聖刻1092もあるとき突然変わってましたが,なんかあるんでしょうか。まあ今回の方は人物は好みの絵で前の方よりも好きなほうだと思うので,まあよいですが。(操兵に関しては群_伝のイラストはまったくだめです。最初の1092が人物にしても操兵にしても一番しっくりときます。幡地&福地のイラストで群_伝を見てみたいです。)