神林長平 小指の先の天使

小指の先の天使
小指の先の天使
posted with amazlet on 06.03.28
神林 長平
早川書房 (2003/02)
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あらすじ

すべてが再現された仮想世界があったとして,動物園のキリンがいきなり鳩を食べたとしたら,それは,現実に住まう神の御業なのだろうか? 人間の意識と神についての物語が現実と仮想のあいだを往還する。

感想

2003年に刊行された短編集です。今回文庫化されたのを機にもう一度読み返してみました。内容は連作集というほどはつながりのあるものではなく,よく読むと内容につながりがあったり,バックボーンが同じであったりする作品が並んでいます。それ以前にそれぞれの作品に第一印象に寒々とした透明感とでも言うべき統一感を感じました。荒涼とした未来の一風景にひとり立ち尽くす主人公,という画像が脳裏に浮かびました。ただ,この感覚は最近の長編作品や連作集などとは少し違い,やはりこれらは共通したテーマの基に書かれたのでは? と思わせる作品集でした。しかし実際には,最初に書かれた作品と書き下ろしの作品では20年ほどの間があり,連作的なものを意識してのものではないのでしょう。それでも,昔からの神林さんの中にある書いていきたいというテーマなのではあるとは思いますが。
ここの作品では「父の樹」が,短い中にも主人公の独白で語られる物語に温かみやさびしさなどいろいろな感情が読み取れとても印象に残っています。