谷甲州 オホーツク海戦―覇者の戦塵

オホーツク海戦―覇者の戦塵1935
第二次オホーツク海戦―覇者の戦塵1936

オホーツク海戦―覇者の戦塵
甲州
中央公論新社 (1999/06)
売り上げランキング: 340,197

あらすじ

ソ連海軍極東艦隊の動きが日本近海で活発になってきた。中国軍と交戦状態にある日本海軍は、思うように兵力を割けない。津軽海峡を航行中の巡洋艦古鷹は二隻の重巡と八隻の駆逐艦で編成された極東艦隊に遭遇した。艦内に緊張感が漲るが交戦には至らず、極東艦隊は姿を消した。この時、津軽海峡には古鷹以外、日本海軍の船舶は一隻もいなかった…。
流氷によって完全に封鎖されたオホーツク海。暴風で予想外の被害を受けた第四艦隊の立て直しを急ぐ日本軍にとって、まさに天祐ともいえる事態だった。ところがソ連軍は、最新鋭の砕氷船を駆使し、いつの間にか日本軍の懐深く深索の手を伸ばしていた。直ちに厳戒態勢が施かれ、周辺の全ての艦船に出動命令が下った。だがその矢先、重巡洋艦「摩耶」が雷撃され、航行に支障を来した。駆逐艦「沼風」は海峡の外まで敵艦を追ったが…。

感想

前回に続き,覇者の戦塵シリーズです。前回が油田調査・陸軍の謀略に巻き込まれていく満鉄職員という地味目の展開だったので,今回は海戦です。とはいえ戦艦が火を噴き,スーパーな艦長さんが大活躍。とはいかないんですよね。主人公というか,語り手は駆逐艦の先任将校に特務機関の隊長,そして水上機の機長。それぞれがその立場から戦況を見つめ,自らの任務を果たし,無能な上部に憤り戦況に流されていく。戦略・戦術そして技術という面から物語りは進んでいきます。
また,当時は異端とみなされていたであろう合理的な考えの持ち主が実際の歴史とは違い,少しずつ認められていきます。これが後の歴史に大きな変化を与えていきます。読んでいるうちは何となしに流れて行きますが,後でもう一度読み返してみると後の巻で出ている変化の前兆が見られ,新たな楽しみを見つけることができます。それにしても最初に登場する海戦がオホーツクの初冬,流氷で埋まりつつ中というのもこの作者らしいところだと思います。
この本も角川書店版は絶版ですが,amazonではユーズドで何冊か出てるようですし,中央公論新社版の合本もあるみたいです。この前の巻を読んでなくとも大丈夫ですので,この機会にどうぞぜひ手にとって見てください。