谷甲州 北満州油田−覇者の戦塵

北満州油田占領―覇者の戦塵
激突上海市街戦―覇者の戦塵1932

北満州油田―覇者の戦塵
甲州
中央公論新社 (1999/08)
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あらすじ

昭和6年北満州で油田探査が進んでいた。巨大油田の存在を確信した関東軍の参謀石原莞爾中佐が試掘を命じたのだ。もし日本が石油資源を確保すれば、列強の軍事バランスは一変する。これを察知してか日本試掘隊を匪賊が襲う。背後には米ソの影が…。
一方、日貨排斥運動燃えさかる上海で、中国軍きっての精鋭十九路軍と海軍陸戦隊が対峙する。そして最初の発砲には意外な事実が隠されていた。

感想

以前にもかきましたがhttp://d.hatena.ne.jp/obake00/20050609/1118331144谷甲州の大河長編の第1作です。最初は角川書店から発行されていて,初版発行年月日は平成三年二月二十五日になっています。途中ほとんど途切れることなく現在まで28冊出ています(当然まだまだ継続中)。で,何を思ったのか,また最初から読み直してるんでここに登場というしだいです。
当時,谷甲州にどっぷりはまってて,それでもなかなか新刊は出ないってときに角川の月刊小説誌(なんて名前だったけか?)に新連載の予告。発売日が待ち遠しく本屋に走った覚えがあります。ただ最初に読んだ感想は「しんどいな〜」でした。油田の試掘現場から,技術者と軍部との葛藤。淡々と進む展開に戸惑いました。しかし読み込んでいくうちにこの日と独特の濃密な文章と今まで考えたことのないような技術者の視点からみた軍事行動。面白いです。はっきしいってはまる人ははまります。特にこの2巻は軽く読み流すのは厳しいかもしれませんが,秋の夜長にゆっくりと,てのがよいですね。
さてこの2巻は主に満鉄の職員が油田の試掘に奔走するうちに歴史の激流に巻き込まれていくって内容です。”北満州〜”では満州の大平原の中で中国軍との軍事的駆け引きに。”激突上海〜”では上海の市街地で関東軍の陰謀と海軍陸戦隊の激戦にと。自らの責務に誇りを持ち最善を尽くす熱い男たちの物語。また,シリーズを通して重要な役割を果たす秋津中尉がさりげなく脇役として登場してきます。この人がまた渋くてよいのですよ。軍中枢で戦闘指揮をするのではなく・・・。まあ読み進めてのお楽しみですねw。ただ架空戦記物のような日本軍一発逆転みたいなものを期待すると思いっきり挫折すること請け合いです。そんな派手な展開には間違ってもなりません。ヒーローも超兵器も出てきません(考えようによっては超兵器なんでしょうが決して一般的にはそのようなものには見えないものなら出てくる。土木工事用トラクターとか)。このシリーズをはじめるにあたり,作者は技術者の目から見た歴史小説を書きたいといっています。たしかにその点からいけば架空戦記になるのですが,今でもたまに出てるあんなむちゃくちゃなものとは違いますから。
ですが,この2巻は現在は絶版です。出版社が変わったとき合本になったものが中央公論新社から出てるんですが,これもどうもとても手に入りにくいみたいです。もし,興味をもたれた方がおられましたら古本屋やオークションなど丹念に探してみてください。