谷甲州 謀略熱河戦線−覇者の戦塵

謀略熱河戦線―覇者の戦塵1933
黒竜江陸戦隊―覇者の戦塵1937


謀略熱河戦線―覇者の戦塵
甲州
中央公論新社 (2000/12)
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あらすじ

武力により満州占領を果たしたものの、軍事力に頼り外交を軽視してきた日本は、国際的に孤立するという危機を迎えていた。占領地の警備強化を怠りソ連国境周辺戦線拡大を図る関東軍に対し、抗日戦の機運は高まる。満州国内戦の危機を避けるため、陣内中尉は抗日武装兵力の英雄、馬占山将軍懐柔に乗り出すのだが…。

感想

前作「オホーツク海海戦」をはさむ,満州での中国軍との戦いを描いたものです。今回の主役は,前半は戦車部隊の段列隊。これは輸送部隊と整備部隊をあわせたような存在です。道の補修や故障したり被害を受けた戦車の修理をしながら,部隊の戦闘能力を維持していきます。後半部分は海軍陸戦隊が主役。この戦史シリーズでは,後に海兵隊へと発展していく部隊が活躍します。
そしてこの巻の主役といえる人物が陣内大尉。前半では段列隊の隊長として機械化をおしすすめ戦車隊のバックアップをし,後半は特務機関の長として危険な偵察行や陸戦隊の先陣を切って,戦闘の重要な役割を果たします。この人物の描かれ方がなかなかに興味深く,このシリーズを象徴しているともいえます。当然戦場のヒーローとして描かれているわけはなく(そんな人物はこのシリーズには出てこない),陸軍の軍人とは到底思えないような行動を取ります。かといって,大陸を颯爽と駆け抜ける快男児ってわけでもありません。軍の流れからははずれ,独自の考えで行動を貫く。時代を先駆けるその思想が周囲の日本人に受け入れられないも満州人として歩みを続けていく。
連帯付の少尉時代から登場しており,巻が進んでいくにつれて行動や考え方,軍とのかかわりかたなどが変わっていくのがよくわかり,そのあたりも面白いところです。